こんにちは!糸の帆(itonoho)のやまもとです。
刺繍はデータ上で綺麗なデザインに見えても、いざ刺繍してみるとその通りに縫えないことがありますよね。例えば正円のデザインが潰れて楕円になってしまったり…。
原因は様々ですが、その1つが生地の「縫い縮み」によるものです。
ここでは実際に比較実験をしながら、縫い縮みを考慮した刺繍データの作り方を見ていきたいと思います。
刺繍が歪むのは「縫い縮み」が原因
「丸」や「四角」の刺繍って一見簡単そうに見えますが案外難しいものです。実際作ってみるとかなりの確率で歪みます。
いわゆる「縫い縮み」と呼ばれる現象。いくら接着芯を使って生地を安定させても歪むときは歪みます。
そんな時は仕方ないので、刺繍データに補正をかけることで対応するしかありません。具体的にはあらかじめデータ自体を逆方向に歪ませたり、わざとステッチをはみ出させたり…。つまり伸び縮みを予測してデータを作るわけです。
縫い縮みの原因
縫い縮みの原因は、糸が引っ張る力によるもの。逆方向には押し出す作用も発生します。これらにより、データ本来のデザインが潰れたような形になってしまうわけです。
刺繍ミシンが悪いのではなく、あくまで「糸」や「生地」の性質によるものなので仕方ありません。
基本的にはステッチ方向に対して縮みが発生するので、刺繍データを作る際はこのことを頭に入れておくと良いでしょう。
生地の種類によって縫い縮みの度合いも変わる
縫い縮みに対応するためには、生地の特性も理解しておかなければなりません。
刺繍に使われる生地は、大まかに下記の3つに分類されます。
それぞれ伸びやすい方向をまとめるので、データ作りの際に意識してみてください。
1、布帛の伸縮性
布帛はいわゆる普通の布です。タテ糸とヨコ糸で織られた織物で、シャツやスーツなどの衣類を始めシーツやカーテンなど様々なものに使われています。
織り方の違いで無数の種類に分けられますが、一様にバイアス方向(斜め)に伸びやすい特徴があります。また、縦に伸びにくく横に伸びやすいため、縫製する際は方向を間違えないよう注意が必要です。
2、ニットの伸縮性
上記が織物ならこちらは編物ですね。セーター、Tシャツ、ジャージなどがこれに当たります。
ニットの特徴は何といっても良く伸びること。編み方によって差が出ますが、特に横方向によく伸びます。洗濯縮みが多いことでも知られていますね。
3、不織布の伸縮性
接着芯などの材料として有名な不織布(ふしょくふ)。最近はマスクの材料としても話題となっていますが、刺繍でお馴染みのフェルトもこの仲間です。
様々な製法があり用途によっても使い分けをされますが、縦・横・斜めのいずれの方向にも伸びにくいのが特徴。
この通り生地ごとに伸びやすさが違うので、母材に応じて、刺繍データにかける補正の強さも変えなければなりません。伸びやすい生地を使うときは強めに補正をかけます。
刺繍に適した生地については、下記の記事でさらに詳しくまとめてあるのでご参照ください。
縫い縮みを考慮した刺繍データの作り方
それでは実際に縫い縮みの実験をしてみましょう。今回は分かりやすく、全方向に伸びにくい「フェルト(1mm厚)」を使います。
まずは丸型の刺繍データを用意。斜め、横、縦方向の3パターンのステッチ用意し、それぞれ2サイズを用意してみました。(下縫いは「縁ランニング」と「ジグザグ」を軽く入れています。)
こちらの丸い刺繍データをもとに、下記の3つのケースで縫い縮みの違いを比較します。
1、接着芯あり、データ補正なしの場合
まずは接着芯(ヒートハイボン 2870P)を貼って、データ補正なしで刺繍した場合。
概ね綺麗ですが、やや歪みが見られるのが分かるでしょうか?6つとも糸のステッチ方向に引っ張られている印象。直径にしてわずか0.5mm程度の差ですが、パッと見でもけっこう分かりますよね。
伸びにくいフエルトにダメ押しで接着芯を貼っても、これだけ伸び縮みが起きるということです。
2、接着芯なし、データ補正なしの場合
こちらは接着芯もデータ補正も行ってない状態の刺繍。
接着芯を貼ったものよりも歪みが強くなっています。直径にして1mmほどでしょうか。
今回はフエルトなのでこの程度で収まっていますが、伸びやすい生地を使ったらさらにひどくなると思われます。
3、接着芯なし、データ補正ありの場合
最後はあえて接着芯は使わず、刺繍データに補正をかけた場合。
上記画像の通り、ステッチ方向に円を伸ばし、縮んだ時にちょうど正円になるように調整してみました。先ほど接着芯なしで刺繍したときの縮み具合を参考に調整。
接着芯を使っていないのにもかかわらず、かなり正円に近づいたと思いませんか?中央下はもう少し強めに補正をかけても良かったかもしれませんね(笑)
以上が縫い縮みを考慮した刺繍データの作り方です。
細かい調整は試し縫いをしながらになりますが、やっているうちに生地に応じた補正具合も身に付いてくると思います。私自身まだまだですが、見栄えに直接影響するポイントなのでこだわりたいところです。
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