ステッチを重ねることで生まれる刺繍の表現

馬 刺繍データ 刺繍ソフト

山本凌哉

こんにちは!糸の帆(itonoho)のやまもとです。

今回はステッチを重ねる面白さについてご紹介。

刺繍において重なり(オーバーラップ)はセオリーとして敬遠されがちですが、状況次第では表現の一つとして使えるテクニックでもあります。

ステッチを重ねることで生まれる刺繍の表現

まずは一例として、こちらの馬の刺繍をご覧ください。いろいろな技を駆使して馬の筋肉や毛並みを表現しようと試みていますが、その一つが糸の重なりです。

少し分解してみるとこんな感じ。

刺繍データ 重なり

ベースにタタミ縫いがあり、その上から薄めのサテンを重ねているイメージ。

同色で糸を重ねるという発想は普段のデータ作りでは下縫い以外では無いでしょう。しかし刺繍は光の乱反射に影響を受けやすいもの。糸の交差角度によって見た目が大きく変わってくるのです。

ステッチを重ねることによる視覚効果はいくつかあります。

ステッチを重ねることによる視覚効果
  • 刺繍に立体感が生まれる
  • サテンを重ねることでタタミの上から光沢が付けられる
  • 滑らかな陰影が表現できる
  • オブジェクトのつなぎ目にぼかしを与える etc

今回でいうと筋肉の立体感を出したかったのと、タタミでは表現できない毛並みの艶感を出せたらなぁと思って重ねてみた次第です。前脚と後脚の表現は比較の為わざと角度・ステッチ長を変えています。

光沢を出したければ、長繊維の特長を活かすべく、なるべく糸を揃えながらステッチ長を長くすれば良いです。ナチュラルにしたければその逆で針落ちをばらすなど…。

タタミ縫いの上からステッチを重ねることに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、機械刺繍の表現方法としてはよく使われています。しっかりした土台の上から重ねると上手く馴染むケースは多いんですよね。そしてなにより使いやすい。

もちろんWilcom ESでいう「アコーディオンスペース」や「カラーブレンド」のように、密度を下げて隙間を作りながら交互にステッチを入れていくような重ね方もあります。

逆にこうした機能を使わずにできる視覚表現のテクニックもあったり…。とにかくステッチを重ねるだけでもいろいろな手法が存在します。

よりデザイン性の高い刺繍を目指していく上では、ステッチの重ね方について研究してみると面白いです。素敵な表現方法が見つかったらぜひ糸の帆の公式LINEで教えてください!

刺繍はどれくらいまで重ねて良いのか?

だいたい2~3層くらいを目安にしている方が多いかと思いますが、正直こればかりは状況次第となります。下縫いの有無やステッチ密度、サイズの違い等もありますので一概に何層までOKとは言えません。

実際のところ、ステッチの重ねすぎは刺繍が固くなったり、生地や下層のステッチを傷つける恐れもあるので注意が必要なことは確かです。とはいえ明確なルールはないので、あとは実際に試し打ちをしながら感覚を掴んでいただけたらと思います。

この辺りはあまりセオリーに囚われすぎず、とりあえず試してみることも大切だと個人的には思ってますね。

下縫いもステッチを重ねる表現の一つ

ちなみに「下縫い」もステッチを重ねる表現方法の1種です。下縫いにはとにかく色々な役割があるのですが、その中の一つに上縫いの質感を変える効果があります。

例えばWilcom ESでいうと、サテン縫いに対して「ジグザグ」や「ダブルジグザグ」を入れるのが良き例でしょう。パッカリング(ステッチにより生地にしわができること)を防ぐという意味では逆効果に思えますが、こうすることで通常よりもぷっくりした質感になり高級感が生まれます。マージンの入れ方でも雰囲気が変わって面白いです。

自動下縫いだけでもいくつか種類があるので、「この下縫いは立体感を出すため」「この下縫いはパッカリングを防ぐため」といったように、意図をもって使いこなせるようになってくると刺繍データ作りがより楽しくなってきます。

3Dサテンも同様

Wilcom3Dサテン トラベルランニング

さらにいうとWilcom ESの「3Dサテン」も仕組みは同じです。ステッチだけでウレタンを入れたような立体感を出せる機能ですが、これも中身は角度の違うジグザグをマージンを調整しながら重ねているイメージですね。実は自動下縫いでも似たような形が作れます。

ちなみに以前お客様からご相談を受けたのですが、3Dサテンはトラベルランニングが各層の縁を走る仕組みになっているので、デザインのサイズや生地によっては上縫いからはみ出してしまう危険性があったりします。刺繍ソフトの扱いに慣れた方なら「移動しながらステッチを選択」を利用した調整方法もありますが、これができない場合は思い切って自動下縫いで代用するのもありでしょう。プロパティでサクッと操作できますし、これならトラベルランニングがオブジェクトの中心を走るのではみ出す心配もありません。

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