こんにちは!糸の帆(itonoho)のやまもとです。
刺繍データを作るとき、作ったデータを簡単に拡大・縮小して使い回しても良いものなんでしょうか?それとも一から作り直さないといけないのでしょうか?
結論から言うと、拡大・縮小は扱うファイルや使っている刺繍ソフトによって出来る場合と出来ない場合があります。
ここではそんな刺繍データの拡大・縮小についてご紹介します。
刺繍データのファイル形式の基本
例えば「画像ファイル(ビットマップデータ)」だと、縮小は出来ても拡大するとボケてしまうという感覚は誰もが持っていると思います。少し詳しい方なら「ベクターデータ」なら拡大・縮小しても画質は落ちないということもご存知かもしれません。
刺繍データの場合はどうなんでしょう?
本題に入る前の予備知識として、まずは刺繍データのファイル形式をご覧ください。大きく分けると下記の2種類に分かれます。
1、ネイティブファイル(オブジェクトファイル)形式
1つ目は、いわゆるステッチデータの元となる編集ファイル。
一部の高価な刺繍ソフトでのみ作れるデータで「ネイティブファイル」と呼ばれ、中身はデザインに関する全ての情報(オブジェクトやステッチ情報等)が保存されています。
オブジェクトアウトライン、オブジェクトプロパティ、ステッチデータなどの全ての情報を含むデータで、自由に編集が可能です。
拡張子でいえばウィルコムの「.emb」や、パルスの「.pxf」などがそれに当たります。
画像ファイルに例えるなら、編集しても画質が落ちないベクターデータのようなイメージですね。実際ベジェ曲線を使って編集可能です。(Illustratorでも元データをネイティブデータと呼びますが同じニュアンス)
ただし、これらのファイルはミシンでは直接読むこむことができないため、刺繍の際はそれぞれが使っている刺繍ミシンや刺繍機に対応した「マシンファイル(ミシンファイル)」にエクスポートして使用します。
市販されている刺繍データは、ほとんどがこうした高性能なソフトを介して作られていて、編集可能な状態でマスターデータとして管理されています。
2、マシンファイル(ステッチファイル)形式
2つ目はそれぞれのミシン用に作られたファイルです。変換されたという表現が適切かもしれませんね。「マシンファイル(ミシンファイル)」と呼ばれ、中身はステッチデータになります。
ミシンは各メーカー独自の構造で進化してきたため、それぞれ違ったコマンドで動きます。つまり各々のデータが必要。顧客囲い込みの目的もあるでしょうが、いまさら統一できないというのも事実でしょう。
拡張子はメーカーによって異なりますし、同じメーカーでも情報内容によって異なる拡張子が複数用意されています。
まず、商用としてはタジマの「.dst」が代表的。非常に容量が軽く、枠や色などの情報は含みませんが、商用・家庭用を問わず世界中のほとんどの刺繍ミシンで読み込み可能な標準ファイルです。もちろんブラザーやジャノメの家庭用刺繍ミシンでも読み取り可。そういった意味では下記のファイルとは一線を画します。
一方、家庭用としては沢山種類があります。皆さんの馴染み深いところでいうと、ブラザーの「.pes」やジャノメの「.jef」が代表的。完全にそのブランドミシンでしか動作しない特有のファイルです。
その多くはアウトラインやステッチタイプといったオブジェクト情報は含まず、各ステッチの位置、長さ、色に関する情報などを持ちます。
刺繍データの拡大・縮小について
刺繍データは、デザインの大きさに対して最適なステッチになるように設計されています。
同じステッチ数のまま拡大・縮小したらどうなるか想像もつくでしょう。大きくすればステッチ密度が粗くスカスカに。逆に小さくすれば密度が上がり、最悪下糸もぐちゃぐちゃになってしまいます。
つまり拡大・縮小するからには、ただツールで大きさを変えるだけでなく、ステッチ数や密度なども再度調整し直す必要があるわけです。当然下縫いや縮み補正もやり直し。
多くの刺繍ソフトではこれが普通です。
ネイティブファイルとそれを扱える刺繍ソフトがあれば可能
ただし「ネイティブファイル」と「それを扱える刺繍ソフト」があれば話は別。
オブジェクト情報があれば、拡大・縮小のツールで好きなサイズに変えるだけで、それに応じてステッチ情報も自動で再計算してくれます。めちゃくちゃ便利ですよね。
最近の優れたソフトなら、ちょっと修正を加えるだけですぐにリサイズして刺繍できます。
マシンファイルは基本出来ないが…
一方、マシンファイルの場合は基本的に出来ない(せいぜい5%程度まで)といっても良いでしょう。ただ実際はもう少し複雑です。拡張子によって情報量が異なりますし、拡大・縮小を試みるソフトによっても変わってきます。
例えば、ブラザーの場合、中間データ(.pes)であれば刺しゅうPROで拡大縮小することが可能。ただし高度なネイティブデータと同等という意味ではなく、多くのソフトは20%くらいの変更に留めるか、それを繰り返して目的のサイズにリサイズする等のテクニックが必要です。
また、ソフトによっては元のアウトラインやオブジェクトデータがなくても、新しいデータをソフト的に作りだすことも可能です。何れも精度はソフトやデザインなどの環境に左右されます。
とにかく拡大・縮小に関しては、扱うファイルや使っているソフトによって対応が異なるので、まずは自分が扱っているファイルと刺繍ソフトがどれに当たるかを把握しておくことが重要ですね。
最後に余談ですが、「データ変換」という言葉には、
などいろいろな意味がありますので、混同しないようにご注意ください。
特に拡張子変換の場合は、可能であっても一部情報が欠損する恐れもあるので注意が必要です。
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