Tシャツなど、ニット素材へのミシン刺繍のコツは?

動物刺繍 コーギー 刺繍のやり方

山本凌哉

こんにちは!糸の帆(itonoho)のやまもとです。

前回動画はたくさんの反響・お問い合わせをいただきました。

液タブに関するご質問がほとんどでしたが、その他意外と多かったのがニット素材への刺繍に関するご相談。なかなか思うようにいかない方が多いようです…。

そんなわけで今回は、ニット素材へのミシン刺繍のセオリー(着眼点)を簡単にご紹介します。

ニット素材へのミシン刺繍は難しい…

Tシャツやポロシャツなど、ニット素材(カットソー)への刺繍は難しいですよね。

布帛の感覚で刺繍をしてみたら、縫いずれや生地の縮み(シワ・ツレなど)が発生してがっかり…。ミシン刺繍をやっていれば誰もがお持ちの経験ではないでしょうか?

「織物」に対し「編物」は伸びることを目的として作られています。そのため縫製でもレジロン糸を使用したり、ロックミシンで縫製するなど、目的を損ねることなくかつ糸切れもしないような工夫がされています。

一方ミシン刺繍の場合は、デザインにもよりますが360度異なる方向からステッチされます。糸の上を叩くこともあれば隙間に針が刺さることもあるでしょう。伸びる生地に伸びない糸で不規則にステッチする(固める)わけですから、当然編目が影響を受けないわけはありません。

つまり、生地の歪みに関しては必然的な事象であり、対策したとしてもどこかでは限界が生じます。

とはいえ、知識があるかないかで大きく差が出るのも事実。まずは「布帛とニットでは加工環境もデータも変える必要がある」ことを前提に、これから紹介するポイントを意識してみてください。

ニット素材へ刺繍するコツ

それではニット素材へ刺繍するコツを見ていきましょう。

加工環境と刺繍データ。2つの観点からの対策が必要です。

1、加工環境を整える

動物刺繍 コーギー

まずは必要最低限、加工環境を整えておきましょう。

下記ざっくりと影響のある項目をピックアップしてみました。

  • 刺繍糸、糸調子
  • 刺繍針
  • 枠種、枠はめ
  • 布押さえ
  • スピード
  • 下紙(安定紙) etc

刺繍糸の素材によっても多少縮みやすさが異なります。もちろん糸調子の強さも影響しますし、針も細いタイプの方がパッカリングが起こりにくかったり。

布押さえの性能(DCPなど)に関しては刺繍機次第なのでどうしようもありませんが、せめてスピードを下げることでバタつきを抑えるくらいの対策はしておきたいですね。糸を引っ張る力はスピードに比例しますので、重要なポイントです。

その他、枠種の選択と生地のはめ方も大きく影響してきます。

いくつか挙げましたが、特に初心者さんに気にして欲しいのは下紙(安定紙)でしょう。

ちなみに弊社では、衣類(ニット素材含む)には糊なしの下紙を使用しています。その先の商品化を考えると、糊あとは僅かでも残したくないですからね。ワッペンのように下紙を残す加工以外は、基本糊なしタイプを使っています。綺麗に仕上がりますし、何より加工工程が減るのですごく楽です。

あとは単純ですが、薄手より厚手のものを使用した方が安定します。また、薄手を数枚を重ねるよりも厚手1枚の方が良かったり…。起毛状態によってはビニールや水溶性のシートをトッピングすることもありますね。

この辺りは実際に比較しながら使い分けてみるのが良いでしょう。

2、刺繍データ作りを工夫する

ニット 刺繍データ

加工環境がある程度整ったら、最終的には刺繍データが仕上がりを大きく左右します。

正直、資材や加工工程は必要以上に増やしたくないですし、なるべくデータ側でなんとかしたいですよね。実際やれることは多いです。

前述したように、布帛とニットでは刺繍データを変える必要があります。密度、ステッチ長、縮み補正などが着目ポイントですが、中でも重要なのは下縫い。布帛だと下縫いが適当でも刺繍できてしまうことが多いですが、ニットの場合そうはいきません。

例えばWilcom ESでは、「自動生地」機能で生地毎にステッチ数値を変更できたり、「自動下縫い」の機能も充実しています。

自動下縫いに関しては全6種類あるので、まずはそれぞれの役割をざっくりと理解すること。なんとなく分かってきたら、ステッチ長や間隔、角度など、細かい数値も弄っていきます。(上縫いと下縫いでは数値調整の感覚も異なります)

この辺りの理解が深まってくると、徐々に生地を見ながら独自に下縫いを作成することもできるようになってくるでしょう。私も刺繍が難しい素材のデータを作る時は、別途下縫い用のオブジェクトを作り、生地にあわせて最適化してあげることが多いです。

ミシン刺繍 下紙

あとは、Tシャツ等への刺繍を考えると、裏面もできるだけ綺麗にしておきたいですね。

一筆書きで糸切りを減らすのはもちろん、ほつれ止め箇所を隠すような工夫もしてあげるとよりスッキリします。例えば今回は8色の糸を使っていますが、ご覧の通り表面上に出てくるほつれ止めは1か所のみ。糸処理の手間も大幅に減らせるので、できる限りの配慮はしておきたいです。

実際にニット素材に刺繍してみた

実際にニット素材に刺繍してみました。

細かい刺繍になるほど、実際に使用する素材に合わせながらの微調整が必要になってきます。ここがミシン刺繍の難しいところではないでしょうか。

生地やデザイン、環境によって変わってもきますが、個人的には下紙と下縫いが最初に見直すべきポイントだと思っています。いかに下紙と下縫いで刺繍しやすい環境を整えてあげるか。これだけで面白いほど仕上がりが変わります。

この辺りのノウハウは各社腕の見せ所でもあると思いますので、公開されている情報も少ないです。私も日々トライ&エラーを重ねながら研究中。より具体的な考察は、糸の帆の会員サイトにて備忘録として共有しておきますのでご参照ください。(非会員様でも講習にてご説明させていただいております)

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